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「桃鉄と確率」イントロダクション

このコーナーでは「桃太郎電鉄と確率」と題して、テレビゲーム「桃太郎電鉄(桃鉄)」シリーズにおけるサイコロと確率に関して議論していきます。そもそも「桃鉄」とは何ぞや?という方も多いでしょうし、確率論なんてワケ分からん!という方はもっと多いでしょう。というわけで、ここでは「桃鉄」そのものの簡単な説明や、このコーナーで扱う確率論の知識についてちょこっと書いておきますね。理系の高校生くらいであれば何となく分かるんじゃないかな、くらいの説明です。(^^;


「桃鉄」とは?

(画像: 楽天ブックス)

さて、今回取り上げる「桃太郎電鉄」シリーズですが、皆さんプレイしたことはあるでしょうか。すごろくがベースになっているゲームなのですが、物件を買ったり、鉄道を買ったりして収益を上げていく一方、「目的地」や「貧乏神」、さらには「カード」などに絡む駆け引きがエキサイティングなゲームです。遊んでみれば楽しさがわかります。

すごろくベースとあって、移動もサイコロなら、イベントの結果もサイコロで決まったりするわけです。となると、サイコロの目が運命を分けることだってあるのです。場合によっては天国と地獄。では、ゲーム中に登場するイベント、勝つ望みがどれだけあるのか?というのが気になってしまいます。このコーナーは、その確率について数学的に考えていこうというものです。

前提事項

まず、サイコロの目は1から6が等確率で出て、しかも独立であると仮定します。これが一番重要です。ゲーム機、つまりコンピュータの世界での「乱数」(疑似乱数と呼びます)は、現実のサイコロと同じではありません。なぜなら、疑似乱数には規則性があるからです。ただ、そんなことを言っていても仕方がないので、ここでは規則性のことは忘れて、ゲーム内のサイコロも現実のサイコロも同じだと仮定しておきます。

次に、このコーナーでは、いくつかのサイコロの出目の総和が「中心極限定理」により近似的に「正規分布」に従うことを使います。例えば、普通に5個のサイコロの出目が16になる確率を考えるとすると、足して16になる5つの出目の組み合わせを考え、それぞれの場合の数を順に調べていくわけですが、サイコロの数が多いと計算が非常に面倒です。たぶん計算も間違えます。(^^;; この定理を用いれば、サイコロの数が多くなっても、電卓(と分布表)さえあれば「出目が20以上になる確率」などが楽に計算できるようになります。

「正規分布」の概略を知りたい方は、Webを検索していただくとよいと思います。

なお、ここで「中心極限定理」による近似計算を行った場合には、必ず表計算ソフトを用いて計算した真の値(の近似値)を載せるようにします。


予備知識

このコーナーで用いる定理や関係式をまとめておきます。正規分布の性質に関しては、ごく簡単な解説を入れています。

1. サイコロの出目の平均(期待値)と分散

サイコロの出目を確率変数Xで表すと、Xの平均 E(X) と分散 V(X) は、以下のように求められます。

  • E(X) = 1(1/6) + 2(1/6) + 3(1/6) + 4(1/6) + 5(1/6) + 6(1/6) = 7/2
  • E(X2) = 12(1/6) + 22(1/6) + 32(1/6) + 42(1/6) + 52(1/6) + 62(1/6) = 91/6
  • V(X) = E(X2) - E(X)2 = 91/6 - (7/2)2 = 35/12

2. サイコロn個の出目の総和

独立な確率変数X, Yに対して

  • E(X ± Y) = E(X) ± E(Y)
  • V(X ± Y) = V(X) + V(Y)

が成り立ちます。n個のサイコロの出目の総和を確率変数Xnで表したとき、この関係を用いると、Xnの平均 E(Xn) と分散 V(Xn) は以下のように求められます。

  • E(Xn) = nE(X) = 7n/2
  • V(Xn) = nV(X) = 35n/12

これと中心極限定理により、Xnの分布は N(7n/2, 35n/12) に近似的に従うことになります。但し、N(μ, σ2) は、平均μ、分散σ2の正規分布を表します。

但し、ここで近似した正規分布は、確率変数が全実数をとる連続分布となっていますので、正規分布をもとに「ある出目が発生する確率」を求めるならば、P(X5 = 16) のようにはできません(この確率はゼロとなってしまいます)。その代わりに、P(|X5 - 16| < 0.5) という確率(四捨五入して16になる数が発生する確率)を考える方が妥当かと思います。このコーナーで正規分布をもとに出目を扱う場合には、上のように確率を求めています。

3. 正規分布に従う確率変数と定数との演算

確率変数Xが N(μ, σ2) に従うとき、実定数a, bに対してaX + bは N(aμ + b, a2σ2) に従います。

4. 正規分布の標準化

3. の性質を用いれば、確率変数Xが N(μ, σ2) に従うとき、Z := (X - μ) / σ は N(0, 1) に従うことがわかります。この操作が正規分布の標準化です。

5. 正規分布に従う確率変数の和

正規分布に従う2つの独立な確率変数X, Yがあれば、X + Yも正規分布に従います。その平均と分散は 1. の関係式から導かれます。

6. 正規分布の形状

正規分布は平均に関して対称な形になります。特に、Z が N(0, 1) に従うとき(平均が0という条件だけでよいのですが)、P(Z > c) = P(Z < -c) となります(cは任意の実定数)。全体の確率は1ですから、これを応用することにより、P(|Z| < c) = 1 - 2P(Z > c) となることもわかります。


標準正規分布表

確率変数Zが N(0, 1) に従うとき、実定数xに対して P(Z < x) [あるいは P(Z > x)] という確率を考えることがあります。この値を手計算で求めることは困難ですが、計算結果が表にまとめられており、この表は標準正規分布表と呼ばれます。確率変数Xが正規分布に従っていれば、予備知識4. により標準化できますので、それに対して標準正規分布表を用いることができます。

いろいろな形式の標準正規分布表がありますが、ここにはOpenOffice.org Calc (NORMSDIST関数) で作成した標準正規分布表[P(Z > x)]を用意しました。このコーナーで使いやすいよう、xが大きい場合(P(Z > x)がごく小さな値である場合)でも指数表示するようにしています。

表の見方ですが、例えば P(Z > 1.25) の値を求めたいとします。このとき、分布表の「1.2」という行と、「+0.05」という列が交わるところにある値を読めば、およその値が得られます。.105650 となっていますので、P(Z > 1.25) ≒ 0.105650 というわけです。